教育と仕組み化
学校や塾は教育を行う場所であり、学校の先生や塾の講師も教育者です。そのため、様々な問題を”教育”で解決しようと試みます。
しかし、学習マネジメント塾では教育だけで全てを解決しようとは考えません。何故なら、世の中には教育で解決するのには不適切な問題もあるからです。その説明をさせて頂く前に、教育の世界とビジネスの世界での「人」に対する考え方の違いについて触れておきます。
教育の世界の人に対する基本構想
教育の世界では生徒が学校に居る間だけ物事がうまく進めばよいのではなく、生徒が学校を卒業した後に社会で活躍してくれる必要があると考えます。そのため、物事をうまく進める核となる部分は生徒本人の中に作り上げることを目指します。
つまり、教育の世界では「人」を変えようとします。
ビジネスの世界の人に対する基本構想
ビジネスの世界では、業務成果が「人」に依存し過ぎることは、その人が急病で働けなくなったり、退職した場合に業務が進まなくなってしまうため、好ましくないと考えます。そのため、物事をうまく進める核となる部分は人ではなく、仕事を進めるための仕組み(業務手順書・ルール・環境・機器など)の中に作り上げることを目指すことになります。
つまり、ビジネスの世界では「仕組み」を変えようとします。
このように、教育の世界は「人」を変えることで問題を解決しようとし、ビジネスの世界は主に「仕組み」を変えることで問題を解決しようとします。誤解をしないで頂きたいのですが、「人」を変える試みと「仕組み」を変える試みのどちらかが優れていてどちらかが劣っているという訳ではありません。野菜を切る時は包丁を、木材を切る時はノコギリを使うように問題の性質上、解決するのにより適した方を用いた方が良いということです。
では、”教育によって解決すべき問題”と”仕組みによって解決すべき問題”は具体的にどのようなものでしょうか?
それを説明するために、人が起こす問題の原因を以下の二つに分類してみます。
- 悪意や不正によって起こる問題
- 過失や怠惰によって起こる問題
悪意や不正によって起こる問題(暴力、窃盗、詐欺、カンニングなど)は教育で解決すべきです。不正を行うことができないような仕組みや罰則などももちろん必要ではありますが、不正行為を行う人はどのような仕組みを構築してもその仕組みの隙間を見つけて悪事を働きます。そのため、時間がかかっても教育によってその人そのものを変えなければ根本的な解決ができません。
過失や怠惰によって起こる問題(遅刻、うっかりミス、試験前に勉強ができていないなど)は教育よりも”仕組み化”によって解決すべきです。
何故なら、教育によって「決して不正行為をしない人」を育て上げることはできるかもしれませんが、教育によって「決してミスをしない人」や「全く怠け心を持たない人」を育て上げることは不可能だからです。どんな優秀な人であってもミスはしますし、怠け心を全く持っていない訳ではないのです。そのため、「過失」と「怠惰」によって起こる問題に対しては、教育も多少は必要ですが、主に「仕組み化」によって解決すべきです。
学校や通常の学習塾では教師が「過失」や「怠惰」による問題も全て教育で解決しようとしますが、これは「問題を起こす原因は『人』にある」という考え方です。これでは解決が困難な上に思わぬ弊害を生むこともあります。
何故なら、この考え方では人は自分が何か問題を起こした時に「自分が○○な人間だから」という発想になってしまいますし、教育者も生徒に対し「お前が○○な人間だからだ!」というようなレッテルを貼ることになりがちだからです。そうなると、その問題の対策は「○○な人間から××のような人間になる」となってしまいます。これは極めて非現実的です。 例えば、対策が以下の様になってしまいます。
教育(人を変えること)だけで問題解決を解決しようとした場合
人を変えることで問題解決を試みた場合、その対策が「きちんとした人間になる」「ミスをしない注意深い人間になる」「意志の強い人間になる」などになってしまいますが、これらは具体的にどのようにすれば良いかが全くイメージできず、まるで現実感がありません。ビジネスの観点で言えば、これらは全く対策とは呼べないのです。
このような発想をしていると、結局いつまでも問題を解決できず、同じ失敗を繰り返すことになります。しかも、その度に「自分が○○な人間だから」と考えてしまうため、自分がものすごくダメな人間のように考えてしまい、自信を失ってしまいます。
同じ問題を「仕組み」を変えることによって解決しようとした場合、以下の様になります。
仕組みを変えることで問題解決を解決しようとした場合
このように、「仕組み」を変える方がはるかに現実的な対策を打つことができます。
「仕組みを変えても人は変わっていないのだから根本的な解決ができていないじゃないか」と考える人も居られると思いますが、本当に優れた人は物事をうまく進めるための仕組みを自分で構築できる人です。
ビジネスの場では、様々な形で「ミスを未然に防ぐ仕組み」や「ミスが起こっても被害を防ぐ仕組み」が構築されています。ビジネスにおいて全くミスを犯さないように見える人は実際にはミスをしないために様々な仕組みを長い時間をかけて構築し続けて来た人です。
もし、その人が「ミスをしない人間になろう!」と決意する以外のことをしてこなかったら、優秀な人になることはできていなかったはずです。
教育の世界において「生徒をより優秀な人間に育て上げる」という考えは素晴らしいものですが、あまりにも「人を変える」ことにこだわり過ぎるために、成果に繋がらないという弊害がどこかで生まれているのではないでしょうか?例えば、遅刻をしたりミスをした人間を叱責したり、反省の弁を述べさせて終わりというようなことが起こっていないでしょうか?
学習マネジメント塾では
「人を変えるより、その仕組みを改善することで問題を解決する」
という仕組み改善思考を修得することを基本姿勢としています。
そのための第一歩として、まずは過失や怠惰による問題が起こった時に「自分という人間そのものに問題があるから」という発想ではなく、過失や怠惰になる原因を探り、その対処法を考えて、仕組みに対する改善を実行するという発想から学んでいきます。