人は責任を受け入れ、それを果たす覚悟を持たなければ成果を出すことは出来ないということをこれまで書いてきました。「責任」というものは人が成果を出すためにも必要ですが、それ以前に成長する上でも絶対に必要になります。人は責任を受け入れなければ大きく成長することはできません。
人が成長していくプロセスを簡単な図で表すと、以下のようになると私は考えています。
「責任」「行動」「実力」の三つの関係を順番に説明すると以下の様になります。
ここで言う「行動」とは「考えること」も含みます。自分が責任を取るという強い覚悟がある人は必死に考え、必死に行動を起こします。逆に言うと、責任を取ろうという意識の無い人は考えない上に動こうとしないのです。この「責任を感じて行動を起こす」ということができるかどうかが優秀な人とそうでない人を分ける最初の別れ道です。
必死に考え、必死に行動を起こせば、様々な経験をすることができます。それらの経験をすることによって仕事における「実力」がつきます。行動することによって時には失敗することもあるでしょうし、誰かに怒られることもあるかもしれません。そういう時「あんなことをしなければ良かった」とつい考えがちですが、責任を取ることが嫌で何も行動を起こさないよりも、行動して失敗する方が学ぶことは多いはずです。
また、仕事においては実際に動いてみないとどうなるか分からないことがほとんどです。どんなに頭が良い人であっても、行動を起こす前に全てのことを予測することはできません。そのため、仕事の場では頭が良くても行動を起こせない人より、がむしゃらにでも行動する人の方が大きく成長することが多いのです。

必死に考え続け、必死に行動し続けることによって「実力」がつけば、周囲の人からの評価も上がります。そうなれば更に多くの「責任」を与えられるのは必然です。その更に多く与えられた責任を果たすために、また必死に考え、行動することで更に実力がついていきます。
このように、以下の①~③三つのプロセスがグルグル回る好循環で人はどんどん実力がついていきます。
①「責任」を感じるから「行動」する。
②「行動」するから「実力」がつく。
③「実力」がつくから更に「責任」を与えられる。

では、これを実際の例を挙げて考えてみます。研修期間が終わったばかりの新人の内科医が居たとします。彼は「自分はまだ医者として未熟なので、経験豊富な先生の指導を受けながら少しずつ責任のある仕事をやっていけたら」と考えていましたが、突然非常に難しい患者さんの主治医を任されることになりました。その患者さんは投薬のバランスを誤れば、すぐに命が危険になるような状態だったとします。

そこで彼は院長に主治医を別の先生にしてもらうように相談しますが、「他の先生はみんな君よりもっと難しい患者さんを何人も抱えている状態だから無理だよ。君ももう研修医じゃないんだから頑張ってね。」と言われてしまいました。その時に彼は何を考え、どのように行動するでしょうか?(もちろんこの場合は病院側の無責任と言えるでしょうが)

そのような状況では「この人が死んでも俺のせいじゃない。新人の俺にこんな患者を任せる病院が悪いんだ!」と考える人も居るでしょうが、腹をくくって「絶対に俺が頑張ってこの患者さんを助けてみせる!」と責任を果たす覚悟を決める人も居るでしょう。そして、その人は自分の経験不足を補うために必死になって勉強をするはずです。

また、経験不足のためにどうしても分からないことがあり、ある先生に相談したところ「この症例についてはA先生が詳しいよ」と言われたとします。しかし、このA先生は腕は良いですが態度や口が悪く、すぐに怒鳴るような人だったため、彼はこのA先生のことが嫌いだったとします。

しかし「自分が絶対に責任を持ってこの患者さんを助ける」という強い覚悟を持っていれば、相手が嫌いな人であっても頭を下げて教えを請いに行くはずです。

このように「自分が責任を取る」という強い覚悟があれば「猛烈に勉強する」「嫌いな人にも頭を下げて教えを請う」というような「行動」をすることができる訳です。もし「この人が死んでも俺のせいじゃない」と考えた場合、または経験豊富な先生から丁寧なサポートを受けている時にこういった行動を起こせるかと言えば難しいでしょう。
患者の側からしてみればとても迷惑な話ではありますが、新人の医者の成長度合いというものだけを考えた場合、より大きな責任を受け入れている方が、早く高い実力を得ることができるということです。
ほとんどの人は自分の実力以上の責任が伴う仕事を引き受けることは躊躇してしまいます。そして「この仕事をするのに見合う実力を付けてからやろう」と考えがちです。

しかし、人は責任を引き受けなければ実力は身に付きません。そのため、「この仕事をするのに見合う実力」などというものはその仕事を引き受け、責任を果たそうと必死にならなければ永久に身につかないのです。

このように、人が成長するプロセスは「実力をつけてから責任を引き受ける」ではなく「責任を引き受けることで実力がつく」という順序になります。だからこそ、成長したいのであれば、自分の実力を少し上回る責任を引き受けることを避けていてはダメです。ここを理解せず、責任から逃げる人は永久に実力をつけることができません。
ただし、物事には限度があります。責任を果たす覚悟を持つことは大事ですが、どれ程頑張っても果たせないような過剰な責任を受け入れるべきではありません。そのような過剰な責任を受け入れ続ければ、それに押し潰されてしまい、自信を喪失したり、最悪の場合うつ病になってしまうこともあり得ます。上記の新人の医者の例でも、もし彼が「自分が絶対にこの患者さんを助ける」という強い覚悟を持って頑張ったとしても、結局患者を助けられず死なせてしまうということが続けば、その無力感と罪悪感で押し潰されてしまうでしょう。
そのため、自分の能力を少し上回る責任を受け入れるようにすべきです。