世間では「言い訳をしてはいけない」とよく言われています。これは何故なのでしょうか?
“言い訳”とは何か失敗をした人が、”失敗の理由を説明すること”でしょうか?しかしそれが絶対にダメという考え方には無理があります。
例えば仕事において、部下が何か大きな失敗をした場合、通常上司はその理由を確認します。その時に部下から「言い訳はしたくありません」と言って何の説明も無かったとしたら上司は納得できるはずがありません。
逆に部下の立場だったとして、何か失敗を経験し、その改善を行う上での協力を上司に求めた場合に、上司から「言い訳するな!」と怒鳴り散らされて、何の状況説明をすることを許してもらえなかったら、そんな上司にはついていけないでしょう。
つまり、”失敗の理由を説明すること”は必要なことであり、それ自体が悪いことでは無いのです。では、世間でダメと言われている”言い訳”とは何なのでしょうか?
私は”言い訳”とは”自分の責任回避のためだけの説明”だと考えています。
要するに、失敗の理由を説明をする際に、その目的がどこに向かっているのかが重要になってくるのです。何かの失敗をした時に、それをリカバリーするためや再発防止のためにその理由を説明しているのであれば問題はありませんが、責任回避のためだけの説明など誰も聞きたくはないはずなので、するべきではありません。もちろん必要も無い責任を負わされることは回避しなくてはなりませんので、抗弁の機会は持つべきですが、それはあくまで状況の改善や再発防止などが完了した後で行うべきことです。
ただ、気をつけなくてはならないのは、人間は失敗の理由を説明していると、だんだん「だから俺のせいじゃねーよ」という気持ちになってしまうことがあるのです。その状態になってしまうと状況の改善や再発防止の方向に考えや行動が向いていかなくなってしまいます。昔の人はそれを経験的に知っていたから「言い訳をしてはいけない」という考え方が広まったのでしょう。
では、人がつい言い訳、つまり”責任回避の理由説明”をしてしまいがちな状況を例に挙げ、それぞれの状況で言い訳をすべきでない理由を書いておきます。
1.他者がミスをした場合
例えば、自動車会社Aが新しく発売する車に必要な部品を部品会社Bに発注したとします。しかし、生産が始まるタイミングになっても部品が納品されなかったため、部品会社に連絡すると、「もう少し時間がかかります」と言われてしまい、車の発売日に間に合わなくなってしまいました。
自分が自動車会社Aの部品調達の担当者だった場合、上司には「部品会社Bのミスで間に合いませんでした」と言いたくなりますが、それは責任逃れの言い訳でしかありません。
部品会社Bがミスをしたことは間違いありませんが、ビジネスにおいては人がミスをすることも想定して動かなくてはならないのです。つまり、この場合であれば、部品会社の選定の際に厳しい監査を実施したり、過去の実績を調べたり、部品の発注をしてからも部品の開発や製造がスケジュール通りに進んでいるかを頻繁にチェックしたりするべきだったのです。
自動車会社Aの調達担当者は、それを怠った自分自身の責任を明確に自覚した上で、代わりの部品を調達する方法を模索したり、再発防止のために部品会社の選定基準や管理レベルを厳しくするなどしなくてはなりません。
2.失敗の理由を説明された側が何の対策も打てない場合
自動車会社Aが部品会社Cから納入していた部品に欠陥があったため、その部品を使った自動車に大規模なリコールが起こったとします。更に、部品会社Cは部品の数値データを改ざんしていました。その場合であれば、自動車会社Aの部品の調達担当者が上司に対して「部品会社Cが数値データを改ざんしていたため、部品の欠陥に気付きませんでした。」と言っても良いでしょう。これは上司は部品会社Cが納品している他の部品にも改ざんが無いか調査したり、場合によっては部品会社Cに訴訟を起こするなどの対策を打つ必要があるためです。
しかし、その車を買ったお客様に「今回の欠陥は部品会社Cが数値データを改ざんしていたためです。」などと言うべきではありません。そんなことを言われてもお客様は「それを俺に聞かせてどうしろって言うんだ?」と思うだけでしょう。これもお客様の立場からすれば単なる責任逃れの”言い訳”にしか聞こえないのです。
ただ、大規模自然災害や国家間の政情の変化など、一企業ではどうしようもないことであれば、説明した方が良い場合もあります。単に「発売日が遅れます」よりも「当社の工場が先日発生した大地震で被災したため、発売日を遅らせることになりました」という説明の方がお客様も納得できるためです。
このように、”失敗の理由を説明する”という行為自体は時には必要なことであり、それ自体が悪い訳ではありません。むしろ”言い訳をしてはいけない”という考え方を強く持つあまり、必要な説明すらしない方が問題です。ですが、失敗の理由を説明する際には、その説明を行う相手や目的によっては単なる”責任逃れの言い訳”になる場合もあるのでそこを注意する必要があります。