数学というものは実社会では役に立たないと考える人も多いですが、論理的な思考を行う上で役に立つ概念が幾つもあります。その一つとして、今回は微分と積分という概念を応用した”微分的観点”と”積分的観点”について書かせて頂きます。

 

微分的観点で考えるか?積分的観点で考えるか?

数学的な微分と積分の概念についての説明をここで詳しくは書きませんが、分かり易く言うと“微分的観点”とは「その瞬間の変化」に着目する考え方であり、”積分的観点”とは「それまでの累積」に着目する考え方です。例えば、今まで不良だった若者が更正して真面目になったことを「立派だ」と言う人もいますし、「今まで散々悪かったのが普通に戻っただけだ」と言う人も居ます。そのどちらが正しいかを一概には決められませんが、前者が不良が普通になったという「変化」に注目している”微分的観点”であり、後者がこれまでの「累積」に注目している”積分的観点”だと言って良いでしょう。

私はどちらかと言うと積分的観点で物事を見ている方だと思いますし、そのような観点で見るように心がけています。ですが、世の中では微分的観点で物事を見ている人が多いように思います。つまり、その時々の”変化”で物事を判断する傾向が強いように感じるのですが、この考え方では、物事の本質を見誤る危険があるかもしれません。

 

積分的観点を持つことで冷静な判断が出来る

微分的観点だけで物事を見ていると、今現在の一瞬の変化にばかり意識が向いてしまいますが、積分的観点で物事を見るように心がけることで、これまでのことやこれから先のことを全体的に眺めることができるので、冷静な判断がしやすくなります。以下に、その例を幾つか列挙してみます。

恋人や配偶者との関係
恋人や配偶者と喧嘩をしてしまった時、その瞬間は相手への愛情が減ってしまっているため、そのまま自分たちの関係が終わっていくように感じるでしょう。しかし、それまで長く付き合って来て、相手から受けた愛情の総計に目を向けることができれば、相手との関係を冷静に見直すことができるはずです。また、逆にDVやモラハラをする恋人や配偶者が一瞬優しい態度を取ってくることで別れられなくなる人もいますが、積分的観点を持つことで、それまで相手からされた暴力や暴言によるマイナスの総計に目を向けることができれば、さっさと別れる決断ができるのです。

国や組織との関係
国や組織が今まで何らかの支援や手当をくれていたものを、財政の悪化などが原因で打ち切るというような事態になった時、大抵の人は文句を言いますが、積分的観点でそれまで国や組織がくれていた支援の総計に目を向けることができれば、感謝の気持ちを持つこともできるでしょう。そうなれば、国や組織の支援に頼ろうという考えも断ち切って自立した生き方を模索できるようになるのではないでしょうか。

自分を支持してくれる人との関係
ノンスタイルの井上さんはツイッターで「今までファンでしたが、ファンをやめます」と言ってきた人に「今までファンでいてくれてありがとう」と返したそうですが、私もそのように考えます。微分的観点で考えると、ファンが一人減ったというマイナスで考えてしまいますが、積分的観点で考えると、今までファンだった人から自分が受けた恩恵の累積は確実にプラスになっているという発想ができるのです。また、ファンだった芸能人が不祥事を起こした時に、”裏切られた!”と考える人もいますが、「それまで楽しませてくれてありがとう」ぐらいの寛大な気持ちをファンの側も持つことができるのではないでしょうか?

投資活動
微分的観点で投資を行っている人は、例えば株式投資などをやってもいつまでも勝てないでしょう、何故なら微分的観点で見ている人は「株価が上がったから株を買う」「株価が下がったから株を売る」という考えになりがちですが、これでは高いときに買って安いときに売ることになってしまうからです。投資で稼いでいる人は積分的観点を持ち、トータルでプラスになるかどうかを常に考えているのです。

 

このように、人はついその時々の一瞬の変化にばかり注目しがちですが、冷静な判断を行うためにこれまでの総計に着目する積分的観点を持つことが望ましいのです。“微分的観点”とか”積分的観点”とか書くと逆に分かりにくいと思う人もいるかもしれませんが、数学に馴染みが深い人間にとっては、この方がイメージがしやすい表現なのです。

私が積分的観点を持つ重要性の他にもう一つ伝えたかったことは、数学を学ぶことで物事を理解・分析するために必要な概念を学ぶことができるということです。今回紹介した”微分的観点”と”積分的観点”も数学を学んでいなければ出てきにくい発想です。数学にはこれ以外にも論理的な思考を行う上で助けとなるような概念が多くありますので、子供に論理的思考力を身に着けさせるためには数学が最も重要と言って良いでしょう。