「叱る」という行為は一方的なもので、適当にやれば良いと勘違いしている人がたまに居ますが、実は「叱る」という行為は、人とのコミュニケーションの中で最もフェアでなくはてならないものです。何故なら、“叱る”という行為は議論の一種であり、「相手側に問題があり、それを改善しなくてはならない」ということを納得させる必要があるからです。

もし、叱る側がルール無視で一方的な意見を押し付けるだけであれば、叱られた側はそれに納得などしないでしょう。納得しなければ改善のための活動などするはずがありません。

また、「叱る」という行為は議論の一種であるため、当然反論されるリスクもあるのです。例えばあなたが課長の立場で部下に「何故〇〇をしなかったのか?」と叱った時、その部下から「課長から別の××の仕事をするように指示されていました。それを優先する場合、〇〇の対応が遅れることになるということはお伝えしていたはずですが?」と言われてしまった場合、逆にあなたが部下に謝罪しなくてはならなくなるのです。

このように、叱るという行為おいては人間同士の議論の場であるという前提に立ち、叱る側も一定のリスクを引き受ける姿勢を見せる必要があります。

では、以下に私が考える叱る時に守るべきルールを列挙しておきます。

 

人格否定やパワハラは論外

まず、言うまでもありませんが、相手の人格を否定するような発言やパワハラ発言は厳禁です。これをやってしまうと、もはや叱るという行為が”議論”ではなく、”叱る側一方的なの自己満足”でしかなくなります。

 

叱る時の理由から離れない

叱るという行為は議論の一種なのですが、議論はテーマに基づいて行われなければなりません。もし、議論が当初のテーマから離れてしまった場合、何の議論をしているのかが分からなくなり、収拾がつかなくなります。叱る場合は、そのテーマである「叱る理由」から決して離れてはいけないのです。

人を叱る時に「大体お前はあの時も~」などと過去の全く関係ないことを持ち出して責め立てる人がたまに居ますが、叱られている側にとっては過去の既に決着がついたことを持ち出されるのは非常に不快な上に、叱られている理由も不明確になり「結局何をどう改善すれば良いのか?」が分からなくなってしまいます。

感情のままに相手を罵るように叱る人は、しばしば叱る理由が二転三転しますが、これは最悪な行動だと言えるでしょう。

 

叱る人の人数を叱られる人の人数より多くしない

もし、自分が叱られている側の立場だった場合、叱られている側の自分が一人だけで、叱る側の上司や先輩が5人も6人も居たとしたら、どのように感じるでしょうか?仮に叱られている理由が正当なものであっても、不公平な形での議論をさせられていることによる相手への反発の気持ちが出て来るはずです。

会社の機密情報を他社に売ったなど、解雇レベルのとんでもない裏切り行為であれば話も違ってきますが、改善を促すことを目的として叱るのであれば、叱る人の人数は叱られている側の人数よりも多くするべきではありません。

 

叱られる側の抗弁も聞く

叱るという行為は議論の一種であるため、当然相手にも抗弁の機会を与えるべきです。何の抗弁の機会も与えず、何かを言おうとするなら「言い訳をするな!」と怒鳴り散らすだけでは、全くフェアではないでしょう。

叱られる側にも「何か反論はあるか?」と訊く姿勢を見せることは重要です。無論、叱る側はどのような抗弁をしてくるかということを事前に考え、それに対して理路整然と反論できるような準備を整えておくことが求められます。

 

[推奨]本質を突いた言葉で短くまとめる

人は好きなものや楽しいものには長く集中できますが、嫌なものには極端に集中力が続かないものです。そのため、“叱られている”という非常に大きなストレスを感じている状態の人間が叱る側の言葉を集中力を持って聞くことができる時間は極めて短いと考えるべきです。

「真剣に説教しているのだから、真面目に聞け」は正論ですが、実際にはそれは難しいのです。くどくどとした長い説教を聞かされた人は、「この人の説教は長いんだよな~」しか頭に残らないでしょう。そのため、改善を求めて人を叱る時は、本質を突いた極めた短い言葉で済ませるのがコツです。

ちなみに私が今までの人生で一番効いた説教は昔上司から言われた一言でした。新人の頃の私は、自分の仕事の意味や意義も理解しない指示待ち人間でした。そして、うまくいかないことがあると、「指示をくれなかった周囲が悪い」というような考え方をしていたのです。

ある日、私は直属の上司から「君は本気で仕事をしているように見えない」と言われました。

私はその言葉を言われたショックでトイレで吐きました。その後三日はまともに食事が喉を通らなかったです。ですが、そのショックから立ち直った後、仕事に対する意識や積極性が全く変わったことを実感でき、その上司も「君は変わったね」と言ってくれました。あの時の上司の極めて短い一言が、他の誰の言葉よりも私の人生を大きく変えてくれたのです。

 

[推奨]叱る時にほんの少しだけ褒めておく

これは少しずるい手ではありますが、叱る時にあえて相手を少しだけ褒めるということもテクニックの一つとして覚えておいて損は無いでしょう。人は叱られると、たとえそれがどんなに正論であったとしても、反発する気持ちが出てきます。その反発する気持ちが「こいつの言いなりになりたくない」という気持ちを生み、素直に改善への活動につなげることができなくなってしまうのです。

そのような時に、例えば「君はせっかく優秀なのに、こんなつまらないことで評価を下げることになるのは勿体ない」などの一言があるだけで、叱られる側は「この人は俺を評価してくれていて、その上で改善を促してくれているのか」という心境になります。そうすれば、叱られる側も素直な気持ちで改善の活動を行うことができるようになるのです。