人と何らかの勝負をして勝利する際、必要になるのは何と言っても実力ですが、実力以外にも重要な要素が二つあります。その二つの要素とは以下の物です。
- ルール
- 場(フィールド)
スポーツや試験などでは、ルールや場を自分で決めることはほとんどできないため、純粋に実力での勝負です。それがスポーツや試験の良いところだと言うこともできますが、ビジネスの場ではルールや場をある程度自分で設定することができる場合もあるため、実力をつけること以上にこれらを考慮しなくてはなりません。そして、最低でも自分にとって不利なルールや場で勝負することにはならないように考えておく必要があります。
有利なルールで戦う
勝負においてルールは実力以上に大きな要因だと言えます。もし、ルールを自分にとって都合の良い形に変えることができれば、どんな勝負にも負けることはないでしょう。
社会におけるルールとは言うまでもなく法律であり、法律を作るのは政治家の仕事です。社会では税金や環境規制など様々なルールが法律で定められており、税制を変えたり、何らかの規制を強化する法案が通ったことで企業が倒産するなどということは珍しくもありません。いつの時代も政治家に収賄などの汚職が絶えないのは、ルールを変える力がどれほど大きな影響力を持っているかということを物語っていると言えるでしょう。
私が勝負ごとにおいて、最もアコギなルールを設定していると思えるものに競馬があります。競馬というものがどのようなルールになっているかご存知でしょうか?馬券を買った人たちから集めたお金から25%をまず胴元であるJRAなどが持っていき、残りの75%が当たり馬券を買った人たちへの配当金として支払われるのです。そのため、例えば倍率が二倍の馬券を10億円分買って当たったとしても、20億円になって返って来る訳ではないのです。何故なら、胴元側は馬券を売った後でも倍率を変えることが出来るので、10億円分も馬券を購入したらその馬は人気があると見なされ倍率を下げられてしまうのからです。
我々が馬券を買った場合、勝ってお金が増えることもあれば負けてお金が減ることもあります。ですが、もし馬券を買う側と胴元側の勝負と言う観点で見た場合、馬券を買う側は絶対に勝てないのです。もはや胴元側にとっては競馬は単なる集金システムであり、勝負とすら考えていないでしょう。
カジノなどであれば、天才的なギャンブラーが大きく勝つことで店側が損をすることも有り得ますが、競馬ではどれほど天才的な予想師が現れても胴元側が損をすることは絶対に無いようなルールになっているのです。つまり、勝負する際にルールを自由に決める権限を持つことができれば、どれほど実力がある相手でも絶対に勝てないような勝負をすることが可能になってしまうのです。
勝ちやすい場で戦う
実力とルールの他に考慮しなくてはならないことは勝負する際の場(フィールド)です。大きな場で勝負して勝ちたいという気持ちも分かりますが、ビジネスにおいては、自分が確実に勝つことができる場で勝負することが重要になるのです。
これについては、非常に興味深い事例として、大阪の松虫中学という学校で体育教師をされていた原田隆史先生という方が実践した方法を紹介させて頂きます。原田先生が赴任する前、松虫中学はその地域の底辺校であり、生徒は勉強も部活も全くやる気が無い状態でした。原田先生は「陸上部の子供たちを2年後に日本一にする」と宣言して、本当に実現させてしまい、更に陸上競技の個人種目で13回の日本一を達成したそうです。その時に原田先生が取った戦略こそが「勝てる場で勝負する」というものです。
陸上競技は様々な種目で構成されており、100m走や走り幅跳びなどは花形種目と言えるでしょう。その反面、砲丸投げなどの投擲種目はそこまで人気はありません。そのため、小学生の頃から陸上をやっている生徒たちはみな100m走などの花形種目の練習を重点的にやっていますが、投擲種目の練習を小学生の頃から徹底的にやっている生徒は実はほとんどいないのです。そこで、原田先生は敵が多い花形種目を捨てて、重点的に練習をしている生徒が少ない種目の練習を徹底的に生徒にさせました。つまり、勝つ確率を少しでも上げるために、より強敵が少ない状況を選んで勝負をしたということです。
これを”ずるい”とか、”強い相手から逃げている”などと思う人もいるかもしれませんが、私は原田先生のこの戦略は素晴らしいと思います。原田先生はこの戦略によって生徒を日本一にさせ、学校全体を立て直すことに成功しましたのですから、誰に文句を付けられる理由も無いはずです。
これは、弱者の戦略(ランチェスター戦略)と呼ばれており、実力で劣る者(ビジネスで言えば起業したばかりの小規模経営者)は強い相手とは戦わないというビジネスにおける基本戦略の一つです。
例えば、フランスで修行をした一流の料理人が二人いたとします。二人の料理の腕に差はありませんが、料理人Aは銀座の一等地に店を開き、料理人Bはフランス料理店があまりない地方都市に店を開いたとします。
料理人Aが一流の料理人だったとしても、銀座の一等地には超一流のフランス料理店が数多くありますので、そのような強敵だらけの場で生き残っていくことは容易ではありません。また、銀座の一等地では店舗の賃貸料だけでも非常に高額なものになるため、強敵だらけの中で賃貸料などの固定費を上回る収益をあげるのは至難の業でしょう。
一方料理人Bは周囲にフランス料理店がほとんど無い地方都市に店を開きました。もちろん普段フランス料理を食べる機会がほとんどない地域の人たちから常連客を掴むことも大変でしょうが、それさえ出来てしまえば周囲に競合店が無いので、その地域のお客さんを独占することができます。また地方であれば店の賃貸料なども比較的安く済むため、手ごろな価格で美味しい料理を提供し続けることで、町の人に愛される店を作ることはできるはずです。
つまり、確率的に考えれば、銀座の一等地に店を開いた料理人Aよりも競合の少ない地方都市で店を開いた料理人Bの方が成功する可能性が高いということです。
「強い敵とは戦わない」というのは決して卑怯なことではなく、当たり前の戦略です。「井の中の蛙大海を知らず」という言葉があります。大海に挑んでいくことは立派ですが、井の中で豊かに楽しく暮らすことができるのであれば、その選択肢もアリでしょう。その場合、井の中の蛙は決して敗者ではないのです。
ビジネスにおけるルールと場
ビジネスにおいても”ルール”と”場”は実力以上に勝負の結果を左右する要因であると言えます。
法律などの社会のルールを変えることは困難ですが、他社と契約する際に契約書にこっそり自分に有利になるような取り決めを入れておくという手は少なからず誰もが使っているでしょう。少なくとも自分がそのような手に引っ掛からないように細心の注意を払う必要はあります。
また、最近は日本企業もどんどん世界に進出しなくてはならないという風潮がありますが、全ての企業が海外進出する必要はないのです。それよりも、自分が最も有利な場をまず確保し、その有利な場を少しずつ広げていくというイメージで事業を拡大していく方が良いでしょう。