少し前にアドラー心理学の「課題の分離」についての記事を書きましたが、今回は勉強における親子間での課題の分離について、より掘り下げて書かせて頂きます。
家族の中での課題の分離
本題に入る前に、家族の中での課題の分離について論じていきます。例えば、妻が専業主婦の夫婦がいたとして、妻は「夫が休日に掃除を全くしてくれないこと」に不満を感じ、夫は「妻がパートで働いてくれないこと」に不満を感じていたとします。そして、妻は「家族みんなで過ごす家なのだから、掃除ができていないことは家族全体の問題だ」と考え、夫は「家計の収入が足りないのは家族全体の問題だ」と考えていました。ですが、私はこの考え方は必ずしも正しくないと考えています。何故なら、価値観や感覚は人それぞれ異なっており、同じ状況でも不満に感じる人とそうでない人がいるからです。
多少掃除ができていなくても、それを不快に感じているのは妻だけで、夫はそれを気にしていないかもしれないのです。また、家計の収入があまり多くなくても、そこに不満を感じているのは夫だけで、妻は現在の収入に満足しているかもしれないのです。その場合、「掃除が出来ておらず不快」は妻だけが感じている問題であり、「家計の収入が足りなくて不満」は夫だけが感じている問題なのです。それなのに、「家族は助け合うべきだから、部屋の掃除をしろ!」と言ったり、「家族を助け合うべきだから、パートで働け!」と言うのは一見正論に見えますが、実は自身の問題の解決を相手に押し付けているのです。つまり、これは夫婦間で課題の分離ができていないということです。
その場合、妻は「夫は多少掃除ができていなくても気にしない人なのだから、私が掃除をしよう」と考え、夫は「妻は現在の生活に満足しているのだから、俺が自分の収入を増やす方法を考えよう」と考えるべきなのです。
ただし、もし夫も掃除ができていないことを不快に感じているのであればそれは夫自身の問題でもあるため、妻に「掃除をしろ」と言うのではなく夫自身が掃除をするべきでしょう。同様に妻も収入が足りないことに不満を感じているのであれば妻自身の問題でもあるため、夫に「もっと働いて収入を増やせ」と言うのではなく妻自身がパートで働くなどするべきです。
親子間での勉強における課題の分離
では、あまり成績が良くない高校生のお子さんとその親御さんの関係はどうでしょうか?勉強や受験はあくまで子供自身の問題です。しかし、親子であれば、ある程度親が子供のサポートをするという関係であるため、お子さんを放っておくという訳にもいきません。そして、親御さんの立場としては、お子さんの成績が良くないと心配になってしまい、「こんな塾に行ってみては?」とか「こんな勉強をしてみては?」と言いたくなるでしょう。
それ自体に大きな問題がある訳ではありませんが、ここで勘違いしてはいけないことは「勉強をすること」はお子さんの問題ですが、「子供が心配で不安」というのはあくまで親御さん自身の心の問題だということです。もし、お子さんに大学に行く以外の夢があり、自身の学業成績に特に不満を感じていないのであれば、「お子さんの学業成績が良くない」ことに不満を感じているのは親御さんだけということになります。それなのに、「もっと勉強しろ!いい大学に行け!」と勉強や受験を強要することは、「子供が心配で不安」という親御さん自身の心の問題の解決をお子さんに押し付けているということです。
これについては、自分は何を目指しているのか?のページでも触れていますが、親御さんはつい「子供が心配」ということを子供自身の問題と混同してしまいがちのようです。子供を塾に行かせたり、受験をさせることの目的が「親が安心すること」になっていてはいけないのです。
もちろん、高校生ぐらいのお子さんは知識や経験が足りない場合が多いため、正しい情報や考えるべきことを教えることは必要です。例えば、芸能界や漫画家などの何万人に一人しか成功しない世界を目指していたり、高校を出てすぐに起業しようと考えている場合、そのリスクの高さや大学で勉強した方が成功率が高いということを説明してあげることは必要でしょう。しかし、十分な説明をし、納得した上でお子さんが決断したのであれば、それを親御さんが「心配だから」という理由で妨害してよい理由は無いのです。それはお子さんの将来と親御さんの不安という別個の問題を混同しており、課題の分離が出来ていないということです。「子供の将来が心配」という親御さん自身の心の問題を解決するためには、子供の生き方に過剰に干渉するのではなく、お子さんがいつか大きな挫折や失敗をした時にサポートできるだけの準備をしておくというのが正しいでしょう。
ですが、もしお子さん自身が「大学に行きたいけれど成績が伸びない」ということに悩んでいるのであれば、それはお子さん自身の問題だと言えるので、学習塾や勉強方法についてどんどんアドバイスするのは良いことだと言えます。ただし、その場合も「親御さん自身が安心すること」が目的であってはいけません。それが目的になってしまっては、耳触りの良いキャッチフレーズを使っていたりセールストークが上手いだけのボッタクリ学習塾に入ってしまうこともありえるからです。塾に行く目的はあくまで「お子さんの成績の向上」であり、「親の安心」ではないということを意識して塾選びをすることが大切です。