当塾においては、自分の問題の責任は全て自分にあるということをまず最初に教えます。これは、何か問題が起こった時に人のせいにしないということであり、言い換えるなら”人を責めない”ということです。ですが、”人を責めない”とか”自分で責任を取る”ということを教えると、“自分を責める”ことが正解だと勘違いする人がいます。しかし、これも大きな間違いです。“自分を責める”ことは”人を責める”ことと同じぐらいすべきではないことです。

 

犯人捜しをしない

何かトラブルが起こった時に“人を責める”か”自分を責めるか”の二者択一だと思っている人は、世の中に起こる全てのトラブルにはそれを引き起こした”犯人”がいるという発想が染みついているのではないでしょうか?そのような発想をしていると非常に生きにくくなります。何故なら、その人にとって「他人は悪くない」ということを認めることは「自分が悪い」ということを認めることと同義だからです。

そのような考え方をしていると、自分が悪いということを認めたくないために人を責めるのをやめられなくなってしまいますし、周囲の人に対し「自分を責めているのではないか」とか「自分を犯人だと思っているのではないか」というような疑心暗鬼を持ち続けることになります。そんなことを続けていれば、人間関係がうまくいかなくなるでしょう。

このような発想から脱却するためには「誰も悪い人間などいない」「犯人などいない」という発想を持つ必要があります。

例えば、車同士の接触事故が起こったとします。その場合、賠償金額を算出するために過失割合を決める必要はありますが、誰も事故を起こしたくて起こした訳では無いのですから、推理小説に出てくるような”犯人”など居ないのです。ただ「不運な事故」がそこにあっただけであり、誰かが責められる必要がある訳でもありません。

車をぶつけられて、相手を責めたてる人がたまにいますが、私はそういう人を見ると「何であんな無意味なことをするんだろう。相手を責めたって、車の傷が直る訳じゃあないのに。」と思ってしまいます。そんなことをしている暇があるのであれば、二次災害が起こらないような安全確保をしたり、警察と保険会社に電話をしたり、事故の状況を記録したりするべきです。そして、事故の相手とは必要最低限の情報交換をしてサヨナラで良いのです。

「犯人がいる」「罪のある人間がいる」というような発想に捉われると、相手を罵るか、自分を責めてひどく自己嫌悪に陥るかのどちらかになりますが、どちらも嫌な気持ちを増大させるだけです。そのような時は、「あ~あ、大変だったな~」ぐらいに思っておき、次に同じような事故を起こさないための具体的な対策だけを考えれば良いでしょう。

 

人に寛容になれる人は自分にも寛容になれる

「人を責めず、自分も責めない」という考え方を身に付けることが出来れば、人に対して寛容になれますが、同時に自分に対しても寛容になれます。「自分に対して寛容」であるということは「自分に甘い」ということとは違います。「自分に甘い」ということは「自分の責任を認めない」ことであり「成長や改善のための具体的な努力をしない」ということですが、「自分に寛容である」ということは「過去に起こしたミスにいつまでも捉われない」ということです。むしろ自分に甘い人ほど自分が行動を起こさない理由づけのために自分を責める(寛容でない)傾向があるように感じます。

正しい”反省”とはの記事でも書きましたが、ミスに対する反省とはリカバリーと改善活動です。自分が起こしたミスに対していつまでも捉われていたら、リカバリーと改善活動ができなくなります。具体的な行動を起こすためには、どこかで自分のミスに対して「起こってしまったことはしょうがない」と割り切ることが必要なのです。その様に考えるためには自分への寛容さが必要になります。無理やり言葉にすれば、「私は確かにミスをしました。ですが、それは既に起こってしまったことなので仕方ありません。過去を悔やむよりも現在の状況をどのようにリカバリーし、今後どのように改善していくかだけ考えて行動します。」という発想です。

 

私は以前、ちょっとしたミスで先輩に迷惑をかけてしまったことがありました。その時、先輩は怒っていましたが、客観的に見て何か大きなトラブルになった訳ではありませんでしたし、私はきちんと先輩に謝罪しましたので、私の中では謝罪した時点で、そのミスは”過去のもの”になったという認識になりました。私のその考えをいい加減だと考える人もいるかもしれませんが、私がいつまでもビクビクと顔色を窺うような態度を取り続ければ、先輩の方も居心地が悪く感じるでしょう。ならば、きちんと謝罪をした後は、出来る限り早く元の関係に戻り、その後はミスに対する具体的な再発防止策を取れば良いだけです。

そもそも、人のミスで少し迷惑をかけられたというようなことがあったとしても、それを執念深くいつまでも覚えている人など普通はいません。その時は怒っていても、数日経てば、「あの時は大変だったな~」という程度になり、数か月後には忘れているでしょう。しかし、自分が人に迷惑をかけてしまったということはかなり強く、長く覚えていることが多いものです。迷惑をかけられた当人はとっくの昔に忘れてしまっているのに、です。

それならば、もっと自分への寛容さを持ち、ミスへの”原因分析”と”再発防止策の実施”という必要なことだけをして、ミスをしたことを悔やんだり、自分を責めたりする気持ちなどさっさと捨て去ってしまう方が自分も周囲も遥かに清々しい気持ちで過ごせるはずだと私は考えています。