人生における重要な決断は必ず自分自身でしなくてはならず、それを人に委ねるということはしてはならないことです。優秀な人ほどこれをよく理解しています。しかし、物事には例外や限度というものがあります。時には、自分の人生における重要な判断や仕事を人に任せたり委ねたりした方が良い場合もあります。それが出来ないと、思わぬ弊害を生むこともありえます。
判断を任せた方が良い事例
判断を人に委ねた方が良い事例として、最も分かりやすいものは病気の治療です。
現在は、医療の世界でもインフォームドコンセント(治療内容の説明と同意)やセカンドオピニオン(他の医者の意見をもらうこと)などの考え方が一般的になってきているため、患者自身が様々な治療法を自分の意志で選ぶことができます。しかし、医療には高度な専門知識が必要であるため、素人が付け焼刃で勉強したとしても医者以上に適切な判断ができる可能性は低いでしょう。
特に癌のような体を切除する治療が必要な病気や後遺症が考えられる病気であれば、患者側が「もっと良い治療法を!」と探したくなる気持ちは分かります。しかし、治療法を探し回っているうちに手遅れになったり、胡散臭い民間療法にはまってしまうケースがあるかもしれません。しかも、自分の意志で自分の人生を決断してきた優秀な人ほど、このようなことになりがちではないかと思います。何故なら、優秀な人は”人が言うから”よりも”自分が納得できるか”を優先するからです。
女優の川島なお美さんは、癌が早期に発見できていたにも関わらず、すぐには治療をせず、金の棒で体をこするという民間療法をしていたため手遅れになったという話を聞いたことがあります。これは私の想像なのですが、川島なお美さんは医者から「すぐに手術をするべきです」と言われたはずですが、「私が心から納得できる治療を受けたい」という気持ちが強すぎて、それに従うことができなかったのではないでしょうか?もし、川島なお美さんが医者の意見に判断を委ねることができていれば、亡くなることは無かったのではないか、と考えてしまいます。
私は、他人に勧められた儲け話の記事で、投資などは人に言われてするのではなく、自分自身の責任と判断でするべきであると書きました。何故なら、自分の責任と決断によって行った投資であれば、仮に損をしてもそこから学ぶことができるからです。しかし、病気の治療で判断を誤った場合、失うのは命です。命を失ってしまったら取り返しがつきません。医者が提示する治療法にも多少の検討は必要でしょうが、投資話と違って詐欺の可能性は低いのですから、納得できるかどうかよりも早急な治療を行うことを優先するべきでしょう。
仕事を任せた方が良い事例
仕事においても、人に任せた方が良い場合が結構あります。仕事には一人でもできるものもありますが、業務の規模が拡大していくと一人ではどうしても処理しきれなくなります。その場合は誰かに仕事を任せなくてはなりません。しかし、これがなかなか難しいのです。何故なら、仕事内容が同じでも、自分自身が行うのと人にやってもらうのでは必要となる能力が大きく異なるからです。
特に実務能力が高い優秀な人ほど人に任せるもどかしさに耐え切れず、自分で全部やってしまおうとするのです。実際、私の先輩にも実務能力は非常に高いですが人に任せるということをしないため、ほとんどの仕事を自分で抱え込んでしまう人がいます。その先輩は仕事熱心なので周囲から信頼はされていますが、もう少し周りの人に仕事を任せてくれれば業務がもっと円滑に進むのに、と私は思ってしまいます。
組織もある一定以上の規模になると、トップの人間は部下に権限を委譲して業務をマネジメントレベルから任せる必要があります。これが出来ず、全てを自分で決めないと気が済まないワンマン社長のもとでは、組織はある一定以上の規模には大きくなりにくいのです。「七つの習慣」の中でスティーブン・R・コヴィー博士は、「リーダーシップ」と「マネジメント」は違うものであり、組織のトップはリーダーシップを持つことに徹するべきであると書いています。組織が進むべき道や何を達成すべきかを示すことがリーダーシップであり、それを達成するための具体的な組織運営を行うのがマネジメントです。
つまり、トップの人間は「この会社の目的はこれで、これだけの目標を達成しなくてはならない。やり方は任せるので頑張ってくれ」と言って部下に委ねることが求められるということです。
能力や決断力に優れた優秀な人はあらゆることを自分で出来ますし、自分で決めてしまいます。ですがその反面、判断や仕事を人に任せることが苦手という人が多い傾向があるように思います。人に任せるということができないと、逆に仕事がうまくいかなくなったり、最悪の場合、命の危機に陥ることもありえるということは認識しておいた方が良いかもしれません。