人は時に過ちを犯すものです。ですが、過ちを犯した人をバカだとか最低だとか言うだけで本当に良いのでしょうか?過ちを犯した人間を擁護するわけではありませんが、「何がこの人をおかしくさせたのか」ということと「自分がこの人の立場だったら同じ過ちを犯さなかったのか?」ということを考えなくてはなりません。
孤独と絶望が人を狂わせる
人がまともな判断ができなくなる時というものがあります。人をそうさせてしまうものは、多くの場合「孤独」と「絶望」です。例えば会社の金を数千万円横領して逃げた男がいたとします。世間一般の感覚で見れば、「何でそんなバカなことを!」と思うでしょうが、それは彼が孤独と絶望に苦しみ続けた結果かもしれないのです。
ひょっとすると彼は50代半ばで、職場では閑職に追いやられて出世の道も消え、上司からはパワハラを受け、部下からもバカにされ、妻との関係は冷め切り、子供たちにも無視されているというような状況だったかもしれないのです。もちろんそのような状況になった責任は彼自身にあるのですが、それでもそのような状況に置かれたら、「俺は何のために仕事を頑張ってるんだ?毎日上司のパワハラに耐えながら仕事をしても、家族は感謝の言葉一つ言わないじゃないか。このまま定年まで働いても妻は俺の退職金の半分を持って熟年離婚するだろう。俺の人生って一体何だったんだ?」と考えてしまうことでしょう。そんな時に会社の金庫にある数千万円の金を見た時に、何も成し遂げられなかった自分の人生で最後に一花咲かせたいという気持ちになってしまったのかもしれません。
そのように考えてみれば、「自分は絶対に彼と同じ立場でも同じ過ちは犯さない!」と自信を持って言える人が何人いるのでしょうか?少なくとも私はあまり自信はありません。もし、彼に暖かく迎えてくれる家族がいたら、または仕事が充実していて未来に多くの希望があれば、横領などしなかったことでしょう。それらが両方とも無い、つまり「孤独」と「絶望」が極まってしまうと、人は正常な判断が出来なくなってしまうのです。
孤独と絶望は本人にしか分からない
横領をした中年男の例は、お金も地位も人望も無い場合の話ですが、必ずしもそのような可哀想な境遇にある人だけが孤独と絶望を感じている訳ではありません。
例えば、CHAGE&ASKAのASKAが薬物使用で逮捕されましたが、世間一般の感覚で見れば、逮捕される前のASKAは全盛期ほどの人気は無くても印税収入で生活には困らず、根強いファンもいるため十分に恵まれた環境にいたと言えるでしょう。しかし、ASKA本人はそのような環境でも絶望を感じていたのではないでしょうか?
ASKAは日本の音楽界の最盛期と言って良い90年代において頂点を極め、全盛期の頃はミリオンセラーを連発し、ライブを行えば簡単に数万人が集まり、誰もが憧れと尊敬の目で見てくれて、お金も名声も思いのままという状況だったことでしょう。そのような絶頂を経験しているからこそ、彼は今現在の”そうでない自分”に強い絶望感を感じていたのではないかと私は思うのです。結局のところ、人がどれほどの孤独と絶望に苦しんでいたかということは他人からは分からないものです。
だからといって薬に逃げることは許されませんが、ASKAには絶頂を経験した人間にしか分からない苦悩があったのではないかということを彼の罪とは別の問題として考えておく必要もあるかもしれません。
人の振り見て我が振り直せ
過ちを犯した人間のニュースは毎日の様に報道されますが、それらを観た時に、多くの人はバカだとか、最低だとか言って責め立てるだけです。そのように言う人は心の中で「自分だったら絶対にこんな過ちは犯さない」と思っているのかもしれませんが、私はそれは思い上がりだと思います。人は孤独と絶望が極まってしまうと、正常な判断ができなくなってしまうものです。強烈な孤独と絶望を感じている訳ではない、普通の状態の時に、それは理解できないと思った方が良いでしょう。
横領や薬物使用などの犯罪行為まではしなくても、自暴自棄になってギャンブルにはまったり、夜の街で遊んだり、酒におぼれたりぐらいであれば、やったことのある人も多いでしょう。ニュースで報道されるような過ちもその延長線上にあるものだと私は考えています。
そもそも、孤独と絶望が極まって過ちを犯してしまった人をどう裁くかなどということは裁判所や雇用している会社が決めることです。「人の振り見て我が振り直せ」という言葉の通り、過ちを犯した人を見た時に我々がすべきことは、その人を裁くことではなく、そこから学ぶことです。
そのためには、「何がこの人をおかしくさせたのか」ということと「自分がこの人の立場だったら同じ過ちを犯さなかったのか?」ということを考え続けなくてはなりません。そのように考え続けることで、自分が同じような孤独と絶望が極まった状態に陥った時にも踏みとどまることができるようになるのではないでしょうか?