人と一緒に力を合わせて頑張れば成功確率は上がる、と多くの人は考えています。この考え方は基本的に正しいのですが、私の経験では力を合わせることで逆にうまくいかなくなることもかなりありました。
責任の分散が問題
複数の人間で一つの仕事をする時に一番危惧しなくてはならないことは、責任の分散です。例えば、何らかの確認を二人の人間でダブルチェックすれば、見落としのリスクを減らせると普通は考えるでしょう。しかし多くの場合、責任の分散が起こってしまい、ダブルチェックが無意味になってしまうのです。それはつまり、チェックをしている二人が両方とも「もう一人がきちんと見てくれているはずだ」と考えてしまうということです。このように自分が全ての責任を引き受ける覚悟を失った状態で仕事をしていては、何人いても責任感のある一人以下の成果しか出せなくなってしまいます。
これについて、からあげのるつぼさんという方がツイッターで非常に分かり易いイラストを描いておられました。このイラストの中では3人の人間でトリプルチェックを行った場合、3人がそれぞれ以下のように考えています。
1人目:後の2人がちゃんと見てくれるだろうからヨシ!
2人目:1人目が合格にしてるし3人目も見てくれるだろうからヨシ!
3人目:前の2人が合格にしてるんだから絶対ヨシ!
これは責任の分散を非常に分かり易く表現していると言えます。
ミスや見落としを仕組み化だけで防ぐことは容易ではない
このような責任の分散を防ぐためには、「誰がその仕事の責任を持つか」を明確にし、その責任者に自信の責任を自覚させることがまず求められます。そうすれば、少なくとも全員が「誰かがちゃんと見てくれるはず」と考えているような状況は防げるでしょう。しかし、これだけでは責任者自身がミスをした時にフォローすることができないというデメリットがあります。しかし、誰かがフォローに入った場合は責任の分散が起こるリスクも出て来ます。
つまり、一人に責任を集中させれば、その責任者自身のフォローができなくなる。フォローするために複数の人間にチェックさせれば責任の分散が起こるというジレンマがあるのです。ビジネスの世界では、個人の能力よりも仕組みによって不具合を防ぐという考え方をしますが、このジレンマがあるからこそ、ミスや見落としを仕組み化だけで防ぐことは難しいと言えます。
結局は責任を引き受ける覚悟が必要
では結局のところ何が必要かと言うと、これまで何度も書いていることですが、それは主体性と責任を引き受ける覚悟です(これについては”責任と成果“の記事や”マネジメントを行う上で絶対に必要なもの“のページなどをご参照願います)。
現場の人間ひとりひとりが主体性を持ち、仕事の全責任を自分が引き受ける覚悟を持つしか最終的な解決にはならないのです。ですが、仕事において特に下の立場の人間でこの意識を持つことは容易ではありません。
私も会社組織で先輩と仕事をする際には、つい「先輩に任せておけば良いだろう」と考えてしまうことがありました。自分にとって知識や経験が十分でない場合は特にそうです。ですが、どれほど経験豊富な人であっても、ミスをする時はします。その時、そのミス自体は先輩がしてしまったとしても、それを防ぐサポートをできなかった責任は間違いなく私にありました。そもそも最初に「先輩に任せておけば」などという考えを持っていたこと自体が間違いだったのです。乱暴な言い方をすれば、仕事においては先輩だろうと上司だろうと”自分以外は馬鹿”だと思って仕事をする必要があるのです。
そして、真っ当な組織であれば、このような主体性や責任を引き受ける覚悟は、上の立場の人ほど持っているものですが、ここで勘違いしてはいけないのは、上の立場の人だからこの意識を持っているのではなく、下の立場の時からこの意識を持っている人が出世して上の立場になるのです。だからこそ、若い頃であっても「下っ端の俺がそんな責任持てねえよ」とか「先輩のミスだから俺は知らねぇよ」などと考えていてはダメなのです。
組織レベルでは、この意識を持つ人間を増やすための地道な教育を行うことが必要ですが、組織をすぐに変えることは容易ではないでしょう。では、せめて個人レベルで自分自身が主体性と責任を引き受ける覚悟を持って普段の仕事をするように心がけることから始めるのが良いでしょう。