保護者の方々が「うちの子は、どれだけ『勉強しなさい』と言っても全然やろうとしない」と言うのを聞いたことがある人も多いでしょう。私は「勉強しなさい」と言って勉強させることは良くないと考えています。ここでは、その理由と代わりにどうすれば良いかを書いておきます。
「勉強しなさい」と言い続けた場合
例えば母親から「勉強しなさい」とうるさく言われて勉強していた場合子供はどう考えるでしょうか?まず間違いなく、「お母さんが怒られないように勉強しなくちゃ」と考えるでしょう。つまり、この時点で子供にとって勉強する目的は「母親に怒らようにすること」になっているのです。
そうなれば、次に「お母さんが居なければ勉強をせずに遊んでいられるのに」と考え始め、最後には「何とかお母さんに怒られずに勉強をサボる方法は無いだろうか?」ということを必死に考えるようになるのです。
その結果、「勉強しなさい」と怒る親と「如何にして親に怒られないように勉強をサボるか」を必死に考える子供との戦いが世界中で繰り広げられている訳ですが、子供がサボることに必死になっている時点で、勉強の成果が出るはずがありません。
子供がサボることに必死になるという最悪の悪循環を作らないためにも、「勉強しなさい」と言い続ける以外の戦略を取る必要があるのです。
「勉強しなさい」と言わずに勉強させるには
ちなみに私にも小さな子供がいます。私は子供に「勉強しなさい」は言ったことがありませんが、大体毎日きちんと勉強しています。ですが、何も言わずに放っておいたら勝手に勉強したという訳ではありません。
私は「勉強しなさい」の代わりに「今日は勉強するの?」と毎日質問しました。
すると、「じゃあやる」と言って勉強し始めることもありますし、「今日はやらない」と言うこともあります。「今日はやらない」と宣言した場合は「分かった。お前がそう決めたのならやらなくて良い。ただし、結果に責任は持ちなさい。」とだけ言います。
それでは毎日「今日はやらない」と言い続けて、結局いつまでも勉強しないのではないかと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
想像して頂きたいのですが、自分が運動や勉強をすることを決意したとして、一緒に住んでいる誰かから毎日「今日はやるの?」と訊かれ続けた場合、毎日「今日はやらない」と宣言し続けることができるでしょうか?人は「やらない決断」を毎日するのも実はかなりしんどいことなのです。そして、「やらない決断」をし続けるストレスが運動や勉強をするストレスよりも大きくなった時「今日はやる」と言うようになるのです。
重要なのは”勉強をすること”以上に”決断をすること”です。
「勉強をしなさい」と親が言うことは親が子供の代わりに勉強をするかどうかの決断をして、その指示を子供に与える行為です。それをするのであれば、子供にはっきりと「やらない決断」をさせる方が良いのです。何故なら、「やらない決断」ができるようになれば、「やる決断」もできるようになるからです。そのため「勉強をしないこと」以上に「決断しないこと」を許してはいけないのです。
「勉強をするの?」と訊いた際の許してはいけない返答
では、次に「今日は勉強するの?」と訊いた際にありえる良くない返答の例を3つほど挙げ、それらが何故ダメなのかを示しておきます。
良くない返答1:「後でやる」
「後でやる」は最悪の返答だと言って良いでしょう。決断力の無い人間は「やらない決断」をすることも苦手なので、とにかく決断を先送りしようとしますが、それを許してはいけません。子供がこのように言ってきた場合は、「”後でやる”などという選択肢は無い。今すぐやらないのであれば、”今日はやらない”と宣言しなさい」と言うべきです。
なお、「今は別のことをやっているので、これが終わったらやる」であればセーフの場合もあります。その場合は、子供が”今やっていること”が終わった時に改めてまた「今日はやるの?」と質問すれば良いでしょう。ただし、”今やっていること”がしばらく待てば確実に終わるものであれば良いですが、ゲームなどのいつまでも終わらないようなものであれば認めるべきではありません。
良くない返答2:「やりたくない」
私の子供は「今日は勉強するの?」と質問すると、「やりたくない」と言うことも多いのですが、私はその返答だけで容認することはしません。何故「やりたくない」という返事ではダメなのかと言うと、「やりたくない」は”決断”を言っているのではなく”気持ち”を言っているに過ぎないからです。つまり、子供は「やりたくない」という自分の気持ちを親に伝え、その上で「やるべき」か「やらなくても良い」のかを親に決めて欲しいと思っているのです。
ここで「やらなくて良いよ」と言ったら子供は親が代わりに決断してくれたことに安堵してしまいます。そして、勉強をしていなかったツケが回ってきた時、子供は「”勉強をしろ”という指示をくれなかった親が悪い」と考え始めるのです。
そのため、私は子供が「やりたくない」と言った場合「お前の気持ちを訊いているんじゃない。決断を訊いてるんだ。”今すぐやる”か”今日はやらない”かを今ここで決めて宣言しなさい!」と言うようにしています。
良くない返答3:無回答
「今日は勉強するの?」と訊いた場合、何となく回答をはぐらかして、結局何も返答をしないというケースも非常に多いですが、もちろんこれもダメです。子供が答えをはぐらかす場合は、”今すぐやる”か”今日はやらない”かのどちらかを宣言するようにしつこく言わなくてはなりません。そして、自分自身が”決断”とそれにともなう”責任”がら逃げているのだということをはっきりと自覚させる必要があります。
なお、親が子供に「今日は勉強するの?」と訊く習慣が無い家のお子さんは、この無回答のケースに当てはまると言って良いでしょう。そのため、これが世の中で最も多いケースです。ほとんどのお子さんは勉強をするかどうかを質問される機会がありません。そのため、”今日は勉強をする”という決断も”今日はやらない”という決断もすることがなく、何となく勉強をしないで過ごし、勉強をしたとしても親や先生の指示に従ってやるという状態のようです。この状態では、仮に指示に従って多少成績が上がっても決断力や行動力、そしてそれらを支える責任感は身につかないままです。
以上、何故”勉強をしなさい”がダメなのかを説明させて頂きましたが、これは勉強に限った話ではありません。子供を育てるにあたっては、自分が何をするかの”決断”を本人にさせ、その責任を自分で持たなくてはならないということを徹底的に教え込む必要があります。
決断を他の人にしてもらい、人から与えられた道を人の指示に従って進むという生き方に慣れすぎてしまうと、そこから外れた時にどうして良いかわからず、何も決断できずに立ち止まってしまうことになります。高学歴の人が挫折を経験した結果、ニート化することがあるのはこれが原因でしょう。
私の子供はまだ小さいため、この決断をさせる習慣による成果がはっきりとした形で出てきている訳ではありませんが、少なくとも毎日きちんと勉強をするようにはなっています。この決断をさせる習慣はより幼い頃から身に付けさせることが望ましいですが、中学生や高校生のお子さんであっても、ある程度の効果は期待できるでしょう。